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八代目の若旦那様から「7月の巡業で三吉を勉強してみてはどうか」とお話をいただいたのは、5月の披露月でのことでした。
『魚屋宗五郎』は師匠の当たり役であり、入門以来何度も拝見してきた大好きな演目です。私自身にとっても、2021年の「稚魚の会・歌舞伎会 合同公演」で宗五郎を務めさせていただいた、非常に思い出深いお芝居でもあります。当時の合同公演では、若旦那様、萬壽旦那、時蔵さん、橘太郎さん、そして團蔵の旦那という錚々たる皆様にご指導をいただき、私にとって大きな財産となりました。
実はその合同公演の際、三吉を勤められていた彌紋さんに橘太郎さんが細かく教えていらっしゃる姿を見て、「主役をやらせていただきながら不届きにも『このお役、やりたいなぁ…』と思っておりました(笑)。
三吉は基本的に幹部のお師匠方がなさるお役ですが、稀に名題がなさることもあります。「いつかチャンスが巡ってきたときに確実に掴めるよう、研鑽を積まなければ」と心に決めておりました。まさかその機会が、八代目襲名という晴れの舞台で、これほど早く巡ってくるとは思ってもみませんでした。飛び上がるほど嬉しかったと同時に、身体の芯が冷えるような恐ろしさを感じたのを覚えています。
ご指導は橘太郎さんにお願いいたしました。五月の公演の合間に楽屋へ伺い、「実はお願いごとがありまして…」とお声がけすると、「お、三吉させてもらうの?そうじゃねぇかと思ってたんだよ。良かったなぁ!」と、快く引き受けてくださいました。5月と6月後半にお稽古をつけていただき、細かな段取りやセリフの間合いをご指導いただきました。「三吉ってのは四次元の存在なんだよ。俺も7代目の旦那にそう言われた。悲しいのは確かだけど、他の三人と同じになっちゃいけないんだよな」というお話しをして頂きましたが、この“四次元の存在”という表現が非常に深く、どこまで体現できたかは分かりません。北トピアでの舞台稽古には旦那様も駆けつけてくださり、「落ち着いちゃダメだ。もっと場をかき乱して、全体のテンポを作っていかないと」というお言葉をいただきました。近年合同公演などの舞台は映像でしか見て頂けていなかったので、舞台稽古を生で見て頂けた事は何よりの喜びでございました。
巡業公演は、全国さまざまな劇場を巡ります。基本的に場当たりなしで本番を迎えるので花道の長さや舞台の間口に合わせて動きをその場で調整しなければなりません。毎日同じように進むわけではないからこそ、「しっかりとお相手のお芝居を受け止め、その場で生きること」を何より心がけました。通常の勉強会では多くても数回しか勤められないお役を、一ヶ月間通して勤めさせていただけたことは、かけがえのない財産です。
課題はまだまだ山積みですが、いつかまた三吉をさせていただけるよう、これからも愚直に修行に励んでまいります。
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